太陽


 頭上を見たら、あまりにも青い空がきれいなので、ぽすっと芝生に倒れた。こんな日に写生会とは、それは美術が好きな人だけが楽しいのではないか。私はこういう日には、昼寝をしていたい。
「ソノさん、できたー?」
私は眠い声で、隣にいるソノさんに聞いた。写生会が始まって三時間、そろそろお昼ご飯の時間だ。それなのにソノさんは早く終わらせたいのか、ざっざっ、とすでに筆を動かしている。私はと言うと、下書きさえしていない。
「このへん塗ったら、終わる」
ソノさんが指差したのは、目の前にある建物の壁だった。
 建物があると描きやすい、そう言ってソノさんはこの場所で描くことを選んだ。私は、そんなものか、と思って、ソノさんについてきた。
 ソノさんは、何でもそつなくこなす。国語、数学、理科、社会、英語、と、先生がべた褒めするくらいだ。勉強もできる上に、音楽、家庭科、もちろん美術も好成績だ。そんなソノさんが私となんで仲がいいのかは、謎だ。
 一度、よくそんな真面目に勉強できるね、と聞いたことがある。ソノさんは、適度にすべてをできていれば先生たちには何の印象も残らない、と言った。とてつもなくいい成績をとって目立っているのに、印象に残らないわけがないのに。私には、ソノさんの言うことが、よくわからない。
 「ソノさん、弁当食おうよ」
「先に食べてなよ」
「一人で食っても、つまんないじゃん」
「…んー…。もうちょっとで終わるから、待ってて」
「へーい」
 ちらっとソノさんの絵を覗き見てみると、やっぱり上手い。三時間で描いたとは思えないできばえだ。これでまた今年の金賞はソノさんがいただきだなあ。
 私は、うんと伸びをしてから大の字になって、ちょっと頭をそらせた。瞬間、目に太陽が映り、世界が白くなった。きれいだ、と思うのに、じっと見てはいられず、思わず目を閉じた。
がばっ、と起き上がり、私は自分の何も書いていないスケッチブックを見た。
「ソノさん。これ、白く塗って提出したら、ダメかな」
「は?」
「太陽で、全部、真っ白んなった」
「…」
「…怒られるかな?」
「怒られると思うけどね。まあ、あんたらしいというか…」
ソノさんは、ちょっとだけ苦笑いした。でも、全然嫌味ったらしくなかった。
この青い空の下、一番美しいと思ったものを描く。それが、写生会なんだろ?うん、だったら、やっぱり、太陽を描こう。今日は、太陽が一番美しい。ソノさんも、わかってるみたいだからね。



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